最終更新:2016年12月2日

森林総合研究所 受粉媒介動物保護へ国際的な提言

hanaabu_160103.jpg
hanaabu_160103_m

 森林総合研究所(森林総研)は11月28日、英国イーストアングリア大学などと共同で、受粉を媒介するハチなどの送粉者を守り、送粉サービスの維持に必要な10の提言をまとめたと発表しました。提言では、農薬のリスク評価と使用規制、総合的病害虫管理(IPM)の推進、送粉者を守る農林業生産者への補償、送粉者の生息地の保全と再生など、当然な対応策をあげています。

 森林総研は、この提言は、12月にメキシコで開催される生物多様性条約締結国会議(COP13)で提言され、各国の政策に反映されることで、地球規模の問題解決への貢献が期待できるとしています。

 今年2月には、生物多様性および生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)は、「送粉者と食料生産に関するアセスメント報告書」を公表しています。報告書は、送粉者による経済効果が最大5770億ドルに達すると試算し、送粉者の減少に対する対策を講ずることを求めていました。この11月末には、英国のレディング大学などの研究チームが送粉者保護への対応次第で食料確保と農業部門の14億人の雇用に影響が及ぶ、と警告する研究結果を発表しています。

 日本でも農業環境技術研究所(現農研機構)が今年2月、受粉媒介昆虫の年間貢献額を4731億円と算定するる研究結果を公表しました。農環研は、効果額は農業産出額5兆7千億円の8.3%に相当し、その7割が野生種によるものと分析しています。

 この森林総研のまとめた提言などが指摘しているように、栽培作物の75%が送粉者の受粉に依存しているということは、自然との共生抜きに農業の将来はなく、食料確保もままならないこと示しているといえます。

(2016年12月2日)

◆送粉者のための10の提言
  • 1.農薬の使用基準の向上
     送粉者に対する農薬のリスク評価を行い、その結果に基づいて農薬の使用基準を制定すること、すでに制定されている場合には規制を強化することが必要です。
  • 2.総合的病害虫管理(IPM)の推進
     病害虫の防除において、経済性を考慮しつつ、農薬だけでなく利用可能な様々な技術を、適切な手段で総合的に講じる総合的病害虫管理(IPM)が必要です。
  • 3.遺伝子組み換え植物のリスク評価
     送粉者に対する遺伝子組み換え植物のリスク評価において、遺伝子組み換え植物を栽培することによる間接的な影響、および亜致死(死に至らしめる手前)的な影響を考慮することが必要です。
  • 4.人工飼育送粉者の移動の規制
     マルハナバチなどの人工飼育種が、本来の生息地外で利用された時、生息地外の生態系に悪影響を与える場合があります。そのため、人工飼育種の生息地外利用に注意することが必要です。
  • 5.送粉者を守る農林業生産者を助けるための補償
     送粉者を守るために、農薬の代わりに天敵を利用した害虫防除を行った場合、生産能力が低下することがあります。こうした場合の農林業生産者への補償が必要です。
  • 6.農業における送粉サービスの重要性の認識
     多くの農作物の種子や果実の生産は、送粉サービスに依存していることを認識することが必要です。
  • 7.多様な生産システムのサポート
     大面積に単一の農林産物を生産するような画一的な栽培方法だけではなく、多様な生産システムが必要です。
  • 8.送粉者の生息地の保全と再生
     森林等の自然植生は、送粉者に食料や生息場所を提供します。そのため送粉サービスを維持するには、自然植生を農地や都市の周辺に確保し、送粉者の生息場所となるように管理する必要があります。
  • 9.送粉者と送粉サービスのモニタリング
     送粉者や送粉サービスに関するデータが不足している国、地域では、長期的なモニタリングシステムの開発が必要です。
  • 10.研究資金の提供
     上記7や8と農林産物の生産性に関わる調査には資金が必要です。
(森林総研プレスリリースより)
 ・森林総合研究所 (2016年11月28日)
  花粉を運ぶ動物を守るための政策を提言
(関連)
 ・反農薬東京グループ
機関誌てんとう虫情報304号(2016年12月)の記事より
森林総合研究所が花粉を運ぶ動物を守るための政策を提言〜農薬使用規制強化やIPMの推進が必要と