最終更新:2015年5月4日

(私の視点)コメの検査規格 消費者に有用な制度に 今野茂樹

私の視点(今野茂樹)

 当会メンバーで秋田県のコメ農家・今野茂樹さんのコメの検査規格についての意見が、5月2日の朝日新聞の「私の視点」として掲載されました。


(私の視点)

コメの検査規格 消費者に有用な制度に

今野茂樹

 農林水産省が1月から3月にかけて玄米の検査規格について議論し、生産者や流通業者、消費者らの意見を聞いた。現行の規格が1951年に制定され、78年に改正されてから大きな改正がなかったことが理由だ。私は抜本的見直しが必要だと考えており、その理由を述べたい。

 まず、検査を必要としている時代背景が大きく変化している。制定された51年当時はコメの自給率が100%に達せず、旧食糧管理法により政府がコメを農家から全量買い上げていた。その際に検査を義務付けたものだ。いわば国民の「空腹を満たす」ことを主眼とした検査であった。その後コメ余りとなり、95年に食管法が廃止され政府による買い上げはなくなったが、検査は現在、JAS法に基づく玄米・精米の品質表示の証明のために存続している。

 ところが、国民のニーズが「より安全でおいしい」へと移っているのに検査は米粒の外観を目視で確認するのみで、安全にかかわる検査は一切行われていない。それどころか、「着色粒」についての厳格な規格が全国の田んぼで過剰な農薬散布を助長するなど、本末転倒な検査制度になっているのである。

 着色粒とは、ほとんどが斑点米カメムシ類と呼ばれる虫が加害してできる茶褐色の斑点が残った米粒で、70年代に開発された「色彩選別機」を使えば精米段階で容易に除去でき、現在流通している精米のほとんどが着色粒を除去したものだ。

 着色粒の混入限度は、1等米では「異物」よりも2倍厳しい規格となっているため、全国の水田で斑点米カメムシの薬剤防除が行われ、薬剤成分が玄米中や流域の河川からも検出される事態になっている。

 近年、防除に多用される薬剤は「ネオニコチノイド系」と呼ばれる殺虫剤で、一昨年、EUが3種のネオニコ系殺虫剤を暫定的使用禁止にしたことで知られている。農水省も昨年、国内のミツバチ大量死の原因がカメムシ防除に使用された薬剤である可能性が高いことを発表している。日本でネオニコチノイド系殺虫剤の使用量が最も多いのが水田であり、そのもとにあるのが農産物検査なのである。

 こうした状況に対し、2004年に岩手県議会が、05年には秋田県議会が「農産物検査制度の見直しを求める意見書」を全会一致で可決し、政府に送付している。また、自民党北海道・東北ブロックが着色粒規格の緩和や廃止を、秋田県大潟村が廃止を求めている。

 検査規格が改正される場合は学識経験者や関係者らによる農産物検査規格検討会が開かれることになるが、そこでの議論だけでなく、より多くの意見を取り入れ、既得権益に偏らない、消費者にとって有用な検査制度にする必要がある。